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墨田簡易裁判所 昭和49年(ハ)647号 判決 1978年5月04日

原告 国

訴訟代理人 遠藤きみ 町谷雄次 ほか一名

被告 菊池ノブ子 ほか四名

主文

一  原告と被告らとの間において、別紙物件目録記載の土地につき、原告が所有権を有することを確認する。

二  被告らは原告に対し、右土地につき、昭和一九年九月五日ごろの売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一申立

一  原告

(第一次請求)

主文同旨の判決を求める。

(第二次請求)

1 主文第一項同旨。

2 被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき、昭和一九年一一月一三日(右起算日が認められないときは、同二九年四月一〇日)の時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  請求原因

(第一次請求)

1 別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)はもと訴外亡菊池正登の所有であつた。

2 原告は昭和一九年九月五日(またはその頃)、同訴外人に対し本件土地を旧海軍八丈島飛行場敷地として買受けたい旨申し入れ、同訴外人はこれを承諾し、代金一、〇四二円五〇銭で買受けた。

3 仮に右売買の意思表示が菊池正登本人によつてなされなかつたとしても、同人はその頃本件土地を管理されていた訴外亡奥山助一に同土地の売買についても代理権を与えていたので、同人が菊池正登のためにすることを示して、同土地を売渡す旨の意思表示をした。

4 仮に右売買について奥山助一に代理権が与えられていなかつたとしても、菊池正登は昭和二〇年八月ごろ本件土地の代金を異議なく受領し、その後も同四〇年一二月二八日に死亡するまで売買無効を主張することもなく、原告に対する奥山助一の意思表示によつて本件土地が原告に売渡されたことを追認した。

5 本件土地の所有者は登記簿上菊池正登と表示されているが、同人は本件土地について原告に対し所有権移転登記手続を経由しないまま昭和四〇年一二月二八日死亡し、被告らが共同相続人として菊池正登の本件土地に対する所有権移転登記申請義務を承継した。

被告らは、被告らが本件土地の所有者であると主張し、原告の本件土地に対する所有権を争つている。

6 よつて原告は被告らに対し、本件土地が原告の所有であることの確認および同土地について昭和一九年九月五日(またはその頃)の売買を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

(第二次請求)

1 第一次請求の請求原因1と同じ。

2 原告は、昭和一九年一一月一三日本件土地を旧海軍八丈島飛行場敷地の一部として自ら占有を開始し、同二九年一一月一三日の時点でも、八丈島町を占有代理人として、八丈島町営飛行場敷地の一部としてこれを占有していた。

仮に右主張が認められないとしても、原告は、昭和二九年四月一〇日本件土地の占有を開始し、同三九年四月一〇日の時点でも、東京都を占有代理人として、東京都営八丈島第三種空港敷地の一部としてこれを占有していた。

3 原告は右占有の始め、本件土地所有権を菊池正登から買受けて取得したと信ずるについて過失がなかつた。

4 仮に占有の始め善意、無過失であつたことが認められないとしても、原告は昭和三九年一一月一三日の時点でも、また同四九年四月一〇日の時点でも、東京都を占有代理人として、東京都営八丈島第三種空港敷地の一部として本件土地を占有していた。

5 原告は本訴において右各取得時効を援用する。

6 第一次請求の請求原因5と同じ。

7 よつて原告は被告らに対し、本件土地が原告の所有であることの確認および同土地について、昭和一九年一一月一三日(右起算日が認められないときは同二九年四月一〇日)の時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(第一次請求)

1 請求原因1、5、の事実は認める。但し菊池正登に登記申請義務があることは争う。

2 同2、3、4、の事実は否認する。

なお昭和二〇年八月の終戦時から数年経過した頃訴外奥山茂子から菊池正登に二、〇〇〇円余の金員が送られて来たことがあるが、右金員を本件土地の売買代金として受取つてはおらず、また同人は同三七年一〇月頃から本件土地につき所有権移転登記手続をすることを原告から求められているが、これを拒否し続け、本件土地を売渡したことを争つている。

(第二次請求)

1 請求原因1、6の事実は認める。但し菊池正登に申請義務があることは争う。

2 同2、3、4の事実は否認する。

仮に原告の主張するように、旧海軍八丈島飛行場、八丈島町営飛行場、東京都営八丈島第三種空港等の各敷地の占有が認められるとしても、右各敷地内に本件土地が含まれていることは明らかでない。

又原告は現在に至るまで、本件土地の事実的支配の重要な基準の一つである登記手続を怠つている。

三  抗弁

(第二次請求に対して)

1 原告は、昭和二〇年八月一五日以降同二九年四月一〇日まで、本件土地の占有を中止している。

2 原告は、本件土地買収代金領収証(<証拠省略>)を偽造して売買の体裁を整えているが、菊池正登が本件土地買収に全く関与していないことを十分承知しており、従つて原告の占有は所有の意思を欠くものである。

3 原告は、戦時中軍事目的遂行の名目で強制的に本件土地を取り上げ、一方的に飛行場を建設しようとしたもので、その占有取得は平穏かつ公然となされたものではなく、憲法上適正な手続を重んずべき立場にある国が、そのような方法で占有を取得した本件土地を、その後所有権移転登記を求めることもなく長期間放置しておきながら、時効期間の経過するのを待ち、にわかに訴訟を提起し、取得時効を援用するのは信義則上も許されない。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠<省略>

理由

一  第一次請求の請求原因1、5の事実については(訴外亡菊池正登が、原告に対し、本件土地について所有権移転登記申請義務があるとの点を除き)当事者間に争いがない。

二  そこで同請求原因2の事実について判断する。

<証拠省略>によれば昭和一九年ごろ、原告は旧海軍八丈島飛行場敷地を拡張するため、同島三根村および大賀郷村一帯の土地を買収することを計画していたが、訴外亡菊池正登所有の本件土地も右買収予定地に含まれていたこと、当時菊池正登は東京都内に居住していたが、同年九月ごろ、国から同人に対し同人所有の本件土地外一筆の土地を右飛行場敷地として買収することについての関係書類が送られて来たので、同人はこれに捺印して返送したことが認められる。被告菊池ノブ子は右関係書類が送られてきたのは同一六年ごろであると供述するが右供述部分は採用しない。

<証拠省略>によれば、原告が三根村および大賀郷村一帯の土地を旧海軍飛行場敷地として買収した当時の買収関係書類は、その大部分が、戦災、旧海軍による終戦時の焼却処分、疎開中の海没等によつて失われたものと認められ、本件においても買収代金支払に関して作成されたものと認められる書面(<証拠省略>)で臨時軍事費歳出昭和二〇年八月分支払証憑書類として保管されているものが証拠として提出されているにとどまり、菊池正登も既に死亡しているため、昭和一九年九月ごろ同人から国に返送された前記買収関係書類の具体的内容を直接認めることのできる証拠はないが、これを知るうえで助けとなる次のような徴表的事実がある。

1  <証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すれば、昭和一九年当時の買収予定地は、三二四筆、三一万九、二〇五坪におよび、右土地の所有者は二〇〇名を超えたが、戦時中であつたので疎開者等島外居住者も相当数あり、これら島外居住者との買収交渉は必ずしも容易でなかつたこと、買収交渉は横須賀海軍施設部の所管であつたが、現地での交渉に当つたのは旧海軍から委託を受けた菅原組であり、島内居住者および島外居住者の管理人が現地に置かれている場合はこれらの者との間で交渉が行われ、現地で直接交渉ができないときは横須賀海軍施設部が本人と連絡し、本人との連絡不能の場合は最終的に同島代表者と交渉するなど、必ずしも画一的方法によらずに買収交渉が進められたこと、菊池正登は八丈島に本件土地のほか四ないし五筆の土地を所有していたが、これらの土地はもと同人の妻である被告菊池ノブ子の父訴外亡菊池増市が所有していたものを、大正一一年七月菊池ノブ子が家督相続によつて所有権を取得し、更に昭和一二年八月同人と結婚した菊池正登が家督相続によつてその所有権を取得したものであるが、菊池正登およびノブ子は両名共八丈島に居住したことがなかつたので、本件土地に対する関心も極めて薄く、その所在位置さえも定かに知らぬ状態で、菊池増市が所有していた頃から代代同人の弟訴外亡奥山助一にその管理一切を委せていたこと、国から菊池正登に対して本件土地買収に関する書類の送付があつたのは一度だけで、他に別段の通知連絡等が行われたことはなく、同人も特に本件土地買収についてその後のなりゆきを確認しないまま時日を経過するうちに、本件土地面積の実測、菊池正登名義による所有権移転登記、段別更正登記等買収を目的とする一連の手続が行われ、最後に買収代金の支払があり、奥山助一或は同人の使者として訴外亡奥山輝久が菊池正登に代つてこれを受領したが、これら一連の手続および買収代金の受領について菊池正登は全く関知しなかつたこと等の事実が認められる。ところで本件土地買収手続のうち当事者間において最も重要な意味を持つのは、いうまでもなく買収申し入れに対する諾否の意思表示であり、地積の実測、登記手続、買収代金の受領等は、いわば二次的な意味を持つにすぎない。買収交渉は管理人のと間で行われることもあり、奥山助一は多年にわたつて本件土地を管理し、本人以上に本件土地を熟知し、買収当時もその管理一切を委されていたのであるから、本件土地買収手続の中には、買収代金の授受だけでなく現地で行う必要のある実測の立合等同人によつてなされ、或は同人でなければなし得なかつたものもあつた筈であり、その場合は別段本人に対して通知連絡がなかつたことも容易に想像し得るところである。それにもかかわらず、本件買収手続中一度だけ、菊池正登本人に対して直接買収に関する書類が国から送付されたとすれば、その中には本件土地買収に関して最も重要な意味を持つ、買収申し入れに対する同人の諾否の意思表示を求める書面が当然含まれていたものとみるのが至当な判断と思われる。

2  <証拠省略>によれば、菊池正登は、昭和四〇年一一月四日、本件土地につき国に対して所有権移転登記手続を求めるため江東区深川の同人宅を訪問した関東財務局の職員小林智重に対して、同一九年当時軍から買収書類の郵送を受けたが、その頃は軍の買収を拒否することなど考えられず、右書類に押印のうえ返送した旨述べていることが認められ、被告菊池ノブ子尋問の結果中にもこれに沿う供述部分がある。とすれば、当時菊池正登に郵送された書類の中には、本件土地買収につき所有者である同人から何らかの回答をすることが必要な書類が含まれており、同人は右書類に押印して返送することによつて、買収に対して肯定的な回答をしたと認めるのが相当である。

3  また前掲各証拠によれば、その際小林智重から本件土地および同時に買収されたことになつていた東京都八丈島大賀郷村字大とんぶの土地について、国に対する所有権移転登記手続をするに必要な承諾を求められたのに対し、菊池正登は、大とんぶの土地については国に買収されたことを知らずに昭和三一年ごろ訴外平戸陽に代金八、〇〇〇円で売渡したことを理由として承諾書の提出を拒否したが、本件土地については別段買収されたことを否定せず、承諾書については後日提出したいと回答している(なお同人は右承諾書を提出する間もなく、約二か月後の昭和四〇年一二月二八日に死亡している)ことが認められ、更に又<証拠省略>によれば、菊池正登は終戦後間もない頃、菊池ノブ子と共に八丈島を訪れているが、その際訴外平戸陽、同奥山茂子らから本件土地が既に買収され、買収代金も奥山助一(当時は既に死亡していたものと認められる)が代つて受領し、同人の妻奥山茂子が預かつている旨説明されたが、これに対して、買収に対する承諾の意思を否定するとか、代金受領を非難するような言動は別段示していなかつたことが認められる。

なお被告は、菊池正登が本件土地を売渡す意思を表示したことを否認し、国から移転登記を求められたのに対し、一貫してこれを拒否していたのもそのためであると主張し、<証拠省略>にもこれに沿う部分があるが、この点に関する同被告の供述はあいまいな部分が多く到底措信することができないばかりでなく、菊池正登が生前本件土地買収の効果を争い、或は買収を承諾したことを否定していたと認めるに足る証拠はない。むしろ<証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すれば、昭和一九年当時買収された三根村および大賀郷村一帯の土地のうち、現在都営飛行場敷地および都営熱帯植物園として使用されている土地を除く二〇万一、〇〇〇坪の土地について、終戦後間もなく買収代金相当額での払下げ申請がなされ、右払下げ申請はその後も継続してなされていたこと、菊池正登が買収関係書類に押印して返送したのは、戦時中でもあり軍の買収を拒否すること等考えられなかつたからで、先祖から受継いだ土地を売渡すことは同人としては不本意であつたことなどが認められるから、このような事実から判断すれば、菊池正登の真意は買収を否認するのではなく、終戦によつて買収の必要も失われた土地であるから、前記払下げ申請のなされている土地と同様に、買収代金相当額で払下げられることによつて、その返還を受けることを強く期待していたため、国に対する所有権移転登記手続に必要な承諾を求められたときも、これを与えることを逡巡していたものと認められる。被告菊池ノブ子の供述中には、菊池正登と共に戦後八丈島を訪れた際、奥山茂子から本件土地買収代金を預かつていると言われたがその時は受取らなかつたとの供述部分があるが、代金の受領を一時留保したのも右同様の意図からであると理解され、このことは被告菊池ノブ子の供述中他の供述部分からも容易に推認することができる。

4  ところで本件土地買収代金が支払われたことを証する書面として<証拠省略>があるが、右書面に記載された氏名、押捺された印影が菊池正登のものであることの証明はない。しかし、いずれも<証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すれば、買収代金は必ずしも本人に直接支払われた訳ではなく、依頼を受けた者に対して数人の分がまとめて支払われたこともあり、受領印も親類や同姓の者の代印によつて間に合わせられることも稀ではなかつたことが認められ、前記認定のとおり、本件土地の買収代金を受領した奥山助一は多年にわたつて本件土地の管理一切を委せきりにされていた者であり、同人が菊池正登に連絡することもなく本件土地の買収代金を受領して助一の妻茂子がこれを預かつていることを知つた時も、正登はそのことについて別段非難もせず、受取るのを一時留保はしたが、結局はこれを受領していることなどから考えれば、菊池正登は奥山助一が本件土地買収代金を本人に代つて受領することについて黙示の承認を与えていたものと認められるから、奥山助一は、与えられた代金受領権の範囲内で、前記支払証憑書(<証拠省略>)に代印を押捺し、同書面に記載された本件土地買収代金一、〇四二円五〇銭および大賀郷村字大とんぶの土地買収代金一、四五四円を受領したものと認められる。

いずれにしても<証拠省略>は、欄外記載部分(後述5)を除けば、本件土地外一筆の土地買収代金の支払を証する書面にすぎず、右代金を一旦奥山助一が受領し、その後菊池正登がこれを受取つたことは、前記のとおり<証拠省略>によるまでもなく他の証拠によつて十分認められるから、同人が本件土地買収を承諾したか否かを推認するための徴表証拠としてはそれ程重要とは思われないが、被告は<証拠省略>は国によつて偽造されたものであると主張するので更にこの点について判断することとする。<証拠省略>によれば、本件土地と同時に買収された三根村および大賀郷村一帯の土地所有者約二〇〇名から提出され、臨時軍事費歳出昭和二〇年八月分支払証憑書類として保管されている書面はすべて<証拠省略>と類似のものであることが認められるが、提出された<証拠省略>の記載と<証拠省略>の記載を個個に検討すれば、いずれも代金受領者の肩書地、氏名の記載を含め、同一人によつて記入されたものと認められ、また右各証の記載様式、体裁、筆跡等を相互に比較検討すれば、数通のものが同一人によつて作成されたものと認められるから、これらの支払証憑書は、買収代金支払の際、受領者が押印さえすれば完成するように予め統一して作成されていたものであり、<証拠省略>もこのようにして作成されたものに、前記のとおり奥山助一が与えられた代金受領権の範囲内で所持印を押捺したものと認められ、このように理解すれば国が菊池正登の当時の住所地を了知していた(買収関係書類が送付されていることからもこのことは明らかである)にもかかわらず、氏名の肩書地は統一的作成に都合のよいように八丈島の本籍地を記載したことも首肯でき、氏名の記載が本文と同一人の手で記入され、押捺された印影が菊池正登本人の印鑑によつて顕出されたものでなかつたとしても、直ちに<証拠省略>が国によつて偽造されたものということはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

5  最後に<証拠省略>の欄外には、国有財産台帳登録済として昭和一九年九月五日の日附が記載されているので右記載の意味を検討するに、<証拠省略>によれば、当時は土地買収代金の支払を促進する要請が強かつたので、「土地買収代金の支払促進に関する件」と題する昭和一六年一月二八日経物第九二号、経理局長、建築局長通牒に定める諸規定に基づき、買収協定が成立したときは売渡者から土地売渡書を提出させ、代金支払が行われたときは右売渡書の日附で国有財産台帳に登録し、買収代金の支払われたことを証する支出の証愚書(臨時軍事費歳出昭和二〇年八月分支払証憑書類として保管されている<証拠省略>がこれに当るものと認められる。)には国有財産台帳の登録月日を記載することとされていたので、<証拠省略>欄外の記載もこれによつて記入されたものと認められ、またこれらの証憑書はいずれも横須賀海軍施設部が保管していたものを厚生省が引継ぎ保管している(<証拠省略>)ことから考えれば、<証拠省略>の右欄外の記載も、横須賀海軍施設部所属の公務員によつて作成された真正な公文書と解すべきであり、右記載によつて本件土地買収について売渡者名義の売渡書が提出されたこと、右売渡書の日附は昭和一九年九月五日となつていたことを推認することができる。以上認定したもろもろの徴表的事実による心証を総合すれば、菊池正登が昭和一九年ごろ国から送付された本件土地買収に関する書類の中には、土地買収協定が成立した場合売渡者から国に対して提出される土地売渡書が含まれていたこと、同人はこれに押印して返送することによつて本件土地を売渡す意思を表示したこと、右売渡書は昭和一九年九月五日付で作成されていたことが推認され、従つて原告は同日ごろ本件土地を菊池正登から買受けてその所有権を取得したものと認めるのが相当であり、他に右認定を覆えすに足る反証はない。

とすれば、訴外菊池正登は原告に対し、本件土地につき右売買を原因とする所有権移転登記手続をする義務があり、同訴外人の共同相続人として右登記申請義務を承継しながら本件土地の所有権を争つている被告らは、原告に対し、本件土地が原告の所有であることを確認すると共に、昭和一九年九月五日ごろの売買を原因とする所有権移転登記手続をする義務がある。

三  よつて、原告の本訴請求のうち第二次請求につき判断するまでもなく、第一次請求を理由ありとして認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 上田之昊)

別紙物件目録 <省略>

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